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はんこ屋さん、Googleで見つけました ― 18歳、旅立ちの前日に

インプレスへの来店動機は、「Googleで見つけてきました」、彼女は屈託なく、そう言った。
AIが当たり前になった時代に、なぜ「印鑑」なのか。
ちょっと待って。
その問いに答える前に、先日のインプレス福岡への来店者を紹介させてほしい。
3月30日。福岡市内の高校を卒業したばかりの18歳の女性が、ひとりでふらりと店を訪ねてきた。
明日には飛行機で東京へ発ち、4月3日には日本武道館で入学式を迎えるという。
3人姉妹の末っ子で、ひとつ上のお姉さんは、この4月から関西の市役所勤め、いちばん上のお姉さんは福岡にいるという。
そして、当の彼女はこの春から八王子にある大学の社会学部で学ぶという。
「実印って、なんですか?」から始まった小さな物語
最初、彼女が口にしたのは「実印と銀行印が欲しい」という言葉だった。
ただ、実印の意味はあまりよくわかっていなかったようで、話を聞いていくと、必要なのは銀行印と認印だということが分かってきた。
仕送りのための口座開設。新生活に向けた、ごく現実的な理由だ。
でも、その「現実的な理由」の奥に、もう少し個人的な話が隠れていた。
銀行印は下の名前だけで作ることにした。
直感的にイメージしたその名前は、おじいちゃんが大好きだったという、やはり日本の大スターにちなんで付けてもらった名前だと。
その名前に家族の愛情が宿っていると、私は受け取った。
寿司屋のバイト代を貯めたお金で買った、自分自身の印鑑
「学校には内緒で、ずっとお寿司屋さんでバイトしていました」
毎年この時季には、親御さんのみ、または高校や大学を卒業したばかりのいかにもフレッシュな若者同伴でインプレスのオフィス店舗に訪れて、印鑑を求められる光景はこれまで20年以上続いて来た。
しかし今回の、親に頼まず、自分で選んで、自分で払うというのは、私が記憶する限りでは初めてだ。
高校時代はダンスに打ち込み、それと並行してこっそりアルバイトを続け、コツコツ貯めたお金で印鑑を買いに来た。
誰かに言われたわけではなく、自分で調べて、自分の財布から出す。
なんだかそれだけで、この子の芯の強さが伝わってきた。
授業はほぼパソコン、ノートを取るよりキーボードの方が早い世代。
それでも、筆記試験はちゃんと手書きで対応できると笑っていた。
デジタルとアナログをさらりと両立する、今どきの18歳だ。
好きな科目は国語だったと言う。
言葉を大切にする女の子が、印鑑を選びに来た。
それもなんだか、腑に落ちた。
ロレックスが語りかけるもの、印鑑が語りかけるもの
ここで少し、話を広げさせてほしい。
ロレックスという時計ブランドをご存知だろうか。
スイス生まれの高級時計で、2024年の売上高は約2兆円。業界を圧倒し続けるこのブランドの強さの秘密は、時計の「性能」を売るのではなく、それを持つ「人の物語」を語ることにある。
成功した人が身に着けるもの。
手にした瞬間、自分の物語がグレードアップする。
これがロレックスの「感情マーケティング」であり、60年以上ブレることなく守り続けてきた「コーポレート・ナラティブ(企業の一貫した物語)」だ。
では、印鑑はどうか。
キャッシュレス化が進み、電子署名が普及し、AIが契約書の文面まで書く時代に、なぜ「はんこ」なのか。わたしは思う。だからこそ、なのだと。
SNSのフォロワー数でも、サブスクの登録数でも測れない何かを人は節目に求める。
それが、手のひらに収まる小さな円の中に刻まれた、自分だけの文字だ。
押した瞬間にしか生まれない、あの感触。
紙の上に残る朱の印影は、どんなデバイスも再現できない、デジタルに反発する、一種のアナログの「主張」というものなのか。
仕上がりの印鑑を手に取って

できあがった印鑑を渡し、感想を求めると「しっかりしてる!」と彼女は口にした。
派手な感動ではなかったが、でもその静かな一言が私にはうれしかった。
顔写真はブログに載せたくないとのことで、印鑑本体とお手元だけを撮らせてもらった。
それで十分だった。
印鑑を受け取った翌日、彼女は飛行機に乗り、東京という街でひとり暮らしをはじめる。
3姉妹の末っ子が、いちばん遠くへ飛んでいく。
その新しい生活のスタートラインに、インプレス福岡の印鑑がある。
彼女のこれからに少しだけ関われた気分。
それだけでもこの仕事をやっていてよかったと思うし、何よりもこれからの未来を謳歌する若者が、ネット完結ではなく、インプレスのオフィス店舗に足を運んでくれたことを嬉しく思った。

おわりに――Z世代へ、そして旅立つすべての人へ
AIが文章を書き、スマホで決済が完結するこの時代に、あえて印鑑屋の扉を開けてくれた18歳に改めて、ありがとうと言いたい。
Googleで見つけてくれた。それが最初の一歩だった。
インプレス福岡は、これからも「新しい物語をはじめる人の最初の一押し」でありたいと思っています。
Sさん、4月3日の武道館での入学式はいかがでしたか?
そして、東京でのこれからの4年間があなたの物語になりますように。

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