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【起業カフェVol.76】AIビジネス活用実例シェア会(第3回)_起業~事業継続のAI活用術

オープニング──新聞記事が連れてきた、新しい三名
2026年8月18日(火)午後4時。
インプレス福岡のオフィス店舗に、年齢も業種もばらばらな起業家・経営者が集まった。
第76回となる起業カフェ。
「AIビジネス活用 実例シェア会」として3回目の開催であり、テーマは「起業~事業継続のAI活用術」。
この日の顔ぶれには、いつもと違うところがあった。
7月22日の西日本新聞に掲載された記事の反響で、初めての方が3名参加されたのだ。
大牟田から来られた作文コンクール運営に携わる方、その息子さんで足と靴のサロンを営む方、そして今年6月に開業したばかりの行政書士の方。
記事を書いてくださった西日本新聞の西山記者も、会場に足を運んでくださった。
「今日はほとんどの方がご自身で経営されていると思います。趣味でも料理でもAIは使えますが、皆さんはビジネスでどう活用して自社の事業をより良く進めるか、というところに注力しておられる。どの使い方が正しい・正しくないということはあまりなくて、より効率的にどう使うかが、いまのトレンドなのだろうと思います」──石松の短い挨拶から会は始まった。
セミナー形式ではなく、全員が自分の実践を持ち寄る。これが起業カフェの流儀だ。
第1回から参加しているY.Oさん(AIコンサルタント)は、この日は夕方からの面談のため早めの退出となった。
昨年37年ぶりに東京から福岡へ戻り、この勉強会でAIをさらに加速させ、今ではAIコンサルティング4件の受注を得ているという。
「ここのいいところは、経験の長い短いは当然あるのに、それが全然関係なく、マウントなしで付き合えることなんです」 ── Y.Oさん
参加者ピッチ──それぞれのAI活用実例
この日も、年代・業種・活用の深さはまったく違う。
それでも全員の話が、「AIに何を聞くか」という一点で静かにつながっていった。
石松道右(インプレス福岡代表)──差がつくのは「答え」ではなく「問い」

石松はまず、第1回・第2回で実際に出た成果から話し始めた。
第1回はロレックスの戦略を自社に落とし込み、ナラティブ(物語)型のブログ記事を書き、それをAIで動画に変換してホームページのトップに掲載した。
その動画を見た山梨県の起業家から法人設立印の依頼が入る。
ロゴマークをAIで作った方で、そのロゴをどうしても印鑑に入れたいという相談だった。
一度も対面せず、Zoomの面談だけで納品。
技を利かせた仕様で、オランダ水牛の素材で納得いく商品に仕上がり、満足感と共に納めることができた。
第2回はバーガーキングの逆襲戦略を自社に当てはめる過程で、プレスリリースに行き着いた。
20年ぶりにAIの下書きをもとにリリースを書き、FAXで送ったところ西日本新聞の西山記者の目に留まり、7月22日の紙面掲載につながった。

「新聞に載るというのは、我々民間人にとっては非常に大きなことです。社会性が伴って、信用力がつきますから。98歳になる父親も喜んでくれました」 ── 石松道右
では、なぜ成果が出たのか。
石松の答えは明快だった。「問いを変えたから」である。
優れた答えは、月20ドルで誰でも手に入る時代になった。
だとすれば差がつくのは、問いの立て方しかない。
しかも価値のある問題ほど表には出てこないし、本人も言葉にできない。
AIは、その隠れた問いを探す虫眼鏡である──そう石松は位置づける。
その実践が、今年1月から続けている12人のインタビューだ。
過去に法人設立印を作った経営者を一人ずつ訪ね、1時間ほど話を聞く。
前後の作業を含めると一人あたり4~5時間、合計で40~50時間。
集まった音声記録は約12万文字。それをすべてAIに読ませて、こう問いかけた。
「この人たちが続けてこられた理由の裏側で、インプレスがまだ取り入れていない問いは何か」
浮かび上がってきたのが、5つの「言葉にできない秘訣」だった。
- 縁の複利
- 土俵の描き替え
- 引き算の規律
- 凡人設計
- 折れない理由の外部化
「縁の複利」は、20年前に銀行で外部講師の対応をしていた方が独立した際、その縁が思いもかけない登壇の機会へと繋がったという話から生まれた。
見返りのない施しが、めぐって自分に返ってくる。
「土俵の描き替え」は、ケーキ店からチョコレート専門店へ転換した経営者の例だ。
日持ちせず場所も取るケーキに対し、チョコレートは溶かしてやり直せて、小さく、効率がいい。
そして最後に石松がAIへ投げたのが、「では、うちが見落としている問いは何か」だった。
返ってきたのは「どうすれば印鑑が売れるか」ではなく、
「創業の手をどう残してきたか」「思い出す日をきちんと設計してきたか」といった問いである。
次回はこれを一つ二つ実践し、その成果を持ち寄りたいという。
足元の集客では、Googleビジネスプロフィールの口コミが117件に達している。
コツは、その場でスマホから書いていただくこと。
「後からだと、ほとんど書かれません。」
H.Kさん(AR名刺×AIエージェント開発者)──特許査定、170万円、そして東京ビッグサイト
建築3DCG映像を手がけて10期目のKさんは、前回に続いての登壇である。
話は率直に、本業の業績が落ちていることから始まった。
専門人材が企業の中で育ち、簡単な3DモデルはAIで誰でも作れるようになった。
「当時は最先端だったものが、10年経つとこうなります。」
そのタイミングで立ち上げたのが、AR名刺「ONCARD(オンカード)」である。
名刺のQRコードから専用カメラを起動し、かざすと動画が浮かび上がる。
画面右下の「AI営業マン」を押せば、チャット画面が開いてサービスを説明してくれる。
「AIを物理的に名刺の中に入れて、配りませんか、というイメージです。」
この1年半、料金設定もロゴマークもサービス名も、資金繰りの相談も広報デザインも、すべてAIとの壁打ちの中から生まれた。
クラウドファンディングでは170万円を調達して東京ビッグサイトの「AR推し活EXPO」に出展。
先週には特許査定が下り、特許取得が確実になったという。
展示会では大手企業や新聞社の担当者が足を止め、宮内庁の広報室からも見積依頼が届いた。
9月1日には、ラベル印刷機メーカーのパートナー企業として再び出展する。
「AIがあったからうまくいった、ということではなくて、AIがあったから挑戦する気になった、というところが大きいと思います」 ── H.Kさん
H.Kさんはさらに、AIに見つけてもらうための公式サイト制作にも取り組む。
ホームページのない飲食店や教室向けに、5万円ほどで簡易な公式サイトを作る。
「インスタだけより、これが公式ですというページがあるほうが、AIが確実に拾ってくれる。」
実際、練馬区のカンフー教室は検索の最上位に表示され、公開2日後に問い合わせが発生した。
ご主人が経営するお店では、以前間借りしていたカレー店の口コミが残っていたため、AIが「カレーが食べられる」と誤って案内してしまう。
それを正すためにも公式サイトが要る、という話は参加者を大いに納得させた。

Tatsu.Kさん(行政書士)──「チャッピー」と高校三年生の志望理由書
新聞記事を見て参加されたTatsu.Kさんは、都市銀行で28年間、外国為替の実務を担当したのち、50歳で久留米市役所へ転職。
11年間で8部署を経験し、59歳で行政書士試験に合格して、この6月に開業した。
市役所時代に母校の高校生を全国のビジネスプラングランプリでトップ10に導いた経験が、そのまま起業支援というライフワークになったという。
そのTatsu.Kさんが持ち込んだのは、高校三年生の娘さんの話だった。
いまの高校生は「チャッピー」と呼んでChatGPTを使いこなし、学校推薦の志望理由書まで書かせてしまう。
「そのまま使うなとは言われているけれど、実際みんな使っています。」
「進路指導では、上手に書かなくていい、思いが伝わるかどうかだと言われるそうです。まとまりすぎると、これはチャッピーが書いたんだろうと思われてしまう」 ── Tatsu.Kさん
一方で、自分の言葉にできないものを、AIが上手な言葉にしてくれることでボキャブラリーが増える側面もある。
「弊害ばかりではないとも思うんです。」
精度が上がったからこそ、使い手の側に問いと判断が求められる──この日のテーマと静かに重なる指摘だった。
Take.Kさん(足と靴のサロン経営)──講座の設計図をAIと描く
自宅サロンとホテル内のサロンで、足と靴に特化した施術と歩行指導を行うTake.Kさん。
最近は「理論をきちんと理解してもらったほうが、自分で自分の体を良くできる人が増える」と感じ、健康講座を始めたところだという。
その講座の構成づくりに使ったのがAIだった。
「こういうことをやりたいと相談していったら、実際に講座をしてみたらどうか、という答えが返ってきたんです」。
無料で使える範囲でも十分に形になった、と話す。
Take.Kさんはイラストも描く。
友人のキャラクターの概要を聞き、鎧の構造や光の反射、材質をAIに調べさせながら描き込んだ作品は、参加者から驚きの声が上がるほどの完成度だった。
テーブルトークRPGの駒を3Dプリンターで作り、同人誌即売会に出品したいという構想も披露。
H.Kさんの発表を受けて「ARを使ったガチャガチャが出てくるのでは」というアイデアが飛び出し、その場で新しい話が動き始めた。
J.Fさん(広告制作会社代表・27期目)──AIを教えるより、AIで安く届ける
2000年の創業から27期目、チラシ・パンフレット・ホームページ制作を手がけるJ.Fさん。
化粧品会社の営業からキャリアを始め、30歳で父の会社を継ぎ、その倒産を経験してから今の会社を立ち上げた。
写真の大型引き伸ばしという父の事業がデジタル化の波で消えていくのを、間近で見てきた人である。そのJ.Fさんは1年前、ウェブデザイナーとグラフィックデザイナーを解雇したことを率直に語った。
「広告の仕事はAIに置き換わるとわかってきたので、彼らにも年を取る前に次を探してほしかった」。
いま会社は、広告だけにこだわらない中小企業支援の会社として再スタートを切っている。
「AIの守備範囲は広すぎて、使い慣れない方は何をどう使っていいか悩まれる。だからAIを直接ぶち込むより、これまで高額だったものをAIで安く提供するほうがいいのかなと考えています」 ── J.Fさん
たとえば鉄工所では、いまも図面に手書きで金額を書いて返す商習慣が残り、社長が出す見積と社員が出す見積が毎回違う。
そこに簡単なシステムを入れて社内標準化を支援する。
AIの最先端を追うのではなく、AIを使って困っている中小企業のためになるものをどう商品化するか。
J.Fさんの立ち位置は明確だった。
S.Fさん(ITコンサルタント)──アタッシュケースに入るスーパーコンピュータ
昨年7月に設立、2期目に入ったS.Fさんは、官公庁のシステム構築に携わってきた技術畑の経営者だ。
この日はG検定の合格報告から始まり、話は一気にハードウェアへ向かった。
S.Fさんが設備投資として購入したのは、NVIDIA製の小型AI機である。
高いものでは〇〇万円ほどするが、手を尽くして〇〇万円で入手したという。
手のひらに載る「お弁当箱」サイズで、重さは1.2キロ。
ノートパソコン内蔵のGPUが推論用のコア数に換算して640程度なのに対し、この箱は6000を超える。
なぜNVIDIAなのか。
Fさんの説明は、AIブームの構造そのものだった。
同社は2006年ごろからCUDAというライブラリを大学などに無償で開放し、GPUを上手に使うためのレシピを16年以上ばらまき続けた。
結果、CADもゲームも3D映像も、世界中のソフトがその規格の上に載っている。
「ネジの規格が揃っているようなもの」。
時価総額5.4兆ドル──日本円で約800兆円は、日本の国内総生産(年間687兆円)を上回る。
「僕がアタッシュケースにAIの器ごと入れて1週間ほどお邪魔して、会社の課題を聞いて、その場でプロトタイプを作る。クラウドに一切つながなくてもできるんです」 ── S.Fさん
狙いは明確だ。クラウドは規約上「学習しない」と書かれていても、サイバー攻撃や委託先の事故は現実に起きる。
攻撃を受けた企業は、その事実自体を外に出せない。
医療機関のように、そもそもデータを外に出せない現場もある。
ローカルなら電気代だけで、データは外に出ない。
自社の何十年もの歴史を覚えさせて「技術に詳しい参謀」を作ることもできる。
応用例も多彩だった。
ニコンのSDKを使ってAIにカメラを触らせ、構図や露出を助言させる仕組み。
上場企業の有価証券報告書を読ませて仮想の経営会議を開かせる試み。
毎晩8時に翌日のセキュリティ更新情報をA4一枚に整えて出力させる運用。
趣味の音楽や動画生成では、「弾けないから出せない」というハンディをプロンプトで飛び越えているという。
「置き換えるんじゃなくて、職人のノウハウを職人じゃない人にも同じクオリティで量産できる様にする。何をするかは僕が決めるけれど、どうやるかはAIでやれますよね」 ── S.Fさん
語り合い──AIと世代、そして仕事の値段
ピッチの合間に話は何度も横道に逸れ、そのたびに本質へ戻ってきた。
初参加の方から「AIってどこに入っているんですか」という質問が出る。
スマホにもパソコンにもあること、LINEのアプリのようにChatGPTやClaudeがあること、ブラウザからでも使えることが、その場で共有された。
「それって楽をしている感じがしませんか」という問いには、S.Fさんが即答した。
「いや、めちゃくちゃ頭を使いますよ。3時間もやると疲れます」。
H.Kさんも続ける。
「頭を使うという人と、楽になったという人では、出てくる結果が全然違うと思います。そうじゃない、私が言いたいのはこうだと返していくと、AIもこうですかと返してくる。それをしないで出てきたものをそのまま使うと、まったく違う文章になります」。
インターネットが出てきたときの「コピペするな」と同じ景色ではないか──そんな話から、そろばんや書道、ピアノは残るのではないかという予測も出た。
行き着いたのは写真の世界だ。
デジタルカメラが出たとき、カメラマンは確実に減った。
「それがいま、全業界で起きている感じがします」(H.Kさん)。
では何が値段になるのか。
S.Fさんが挙げたのは時間だった。
来週でよければ5000円、今日の夜までに仕上げてほしいなら10万円。
AIを使いこなす人が、急いでいる人の時間を買い戻す。
「価格だけの人は埋もれていく。差別化できる人にこそ、逆に価値が出てきます」。
西日本新聞の西山記者からは、新聞社の現在地も語られた。
記者個人のAI利用を管理部門が把握するようになり、校閲・校正以外での利用は注意の対象になりつつあるという。
「意図したものが出てこないので、僕は結局、自分で書いたほうが早い」。
一方で、東京で起業された娘さんが「AI社長」というサービスを手がけていることも紹介された。
汎用のAIではどうしても似てくるから、その会社にしかない考えやデータを集約して、その会社らしさを残す──近く、その考え方をまとめた書籍も出るという。
この日を貫いた3つのテーマ
テーマ① 差がつくのは「問い」
石松の「優れた答えは誰にでも手に入る時代、差がつくのは問いの立て方」という言葉が、この日の背骨だった。
12万文字のインタビュー記録に「うちが見落とした問いは何か」と尋ねる姿勢と、Tatsu.Kさんの「思いが伝わるかどうか」、J.Fさんの「AIをどう商品にするか」は、同じ方向を向いている。
テーマ②AIは、鏡である
S.Fさんの言葉が、この日いちばん深く刺さった。
「結局は鏡なんです。聞いたこと以上のことは返ってこない」。
単に教えてと頼めば、心地よい答えしか返ってこない。本気で聞こうとすると、シビアなことを言ってくる。もう一人の自分と向き合う作業だからこそ、頭も使うし、疲れもする。
テーマ③ 残るのは「体験」と「経験」
H.Kさんが展示会で確かめてきたのは、「モノだけでなく、体験に価値がある」という変化だった。
紙をなくすのではなく、紙に付加価値をつける。
そしてTake.Kさんのイラストも、Tatsu.Kさんの11年8部署も、J.Fさんの倒産の経験も、AIには代われない持ち札である。
積み上げてきた経験知こそが、いちばんの武器になる。
おわりに──横のつながりで、さらに伸びていく
約2時間強。プレゼンが終わるころには、初対面だったはずの参加者同士が「今度これを一緒にやりませんか」と話し込んでいた。
ARとイラスト、ローカルAIと広告制作、行政書士と起業支援。
組み合わせの数だけ、次の仕事の芽がある。
起業カフェは2011年から続けてきて、この日で76回目を迎えた。
セミナー形式ではなく、お互いの知識と経験をフラットにシェアする。
専門書には載っていない「生きた知恵」が、そこには詰まっている。
「今日もすごく盛りだくさんでした。横の関係もつなげて、さらに成長していきましょう」 ── 石松道右
次回は10月ごろの開催を予定している。
案内はあらためて差し上げます。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

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