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【起業カフェVol.75】AIビジネス活用実例シェア会(第2回)_西日本新聞社の取材が入った夜、零細企業の「逆襲」が動き出した

オープニング──予定通り、けれど特別な一日
2026年6月9日(火)午後4時。インプレス福岡のオフィス店舗に、年齢も業種もばらばらな起業家・経営者が集まった。第75回となる「起業カフェ」の幕開けである。
テーマは、前回(Vol.74)が大変好評だった「生成AIビジネス活用 実例シェア会」の第2回。発表したい人は発表し、聞くだけの人は聞くだけでいい。
参加者が持ち寄ったおやつと、水で喉を潤しながら、終始ラフに進んでいった。
そして今回、特筆すべきことがあった。
2011年から続けてきたこの勉強会に、西日本新聞社の取材が入ったのである。
記者の方にも会場に同席いただき、参加者一人ひとりがAI活用の現場を語った。
参加者ピッチ──それぞれのAI活用の現場
年代も業種も、AIの活用深度もまったく異なる。
それでも全員の発言に、「AIと人間の役割をどう分けるか」という共通の問いが流れていた。

Sさん(司法書士・行政書士)── AIは「時短」より「お客様との距離」を縮めた
インプレスのオフィス店舗から徒歩3分という近さで開業するSさん。
日頃いちばんAIが活躍しているのは、お客様への手続き案内の書類づくりだという。
初回面談でお客様がもっとも知りたいのは「見積もり金額」と「手続きの流れ」。
以前は口頭やホワイトボードで説明していたが、今はGeminiにフローのたたきをつくらせてからClaudeに渡し、見やすい書類に仕上げる。
「可視化はClaudeの方が得意」と使い分けている。録音した内容からフローを起こすこともある。
かつては会社設立や相続登記など、よくある手続きしかフロー化していなかった。
だがAIの登場で、複雑な手続きについても、お客様ごとにカスタマイズしたフローを毎回つくれるようになった。
時間の短縮というよりも、お客様とのコミュニケーションがより親密になった。1枚の紙で『全5ステップのうち、今は3にいますよ』と共有できる。メールのやり取りだけの頃より、ずっと伝わりやすくなりました。
── Sさん
Oさん(AI生成プランナー/社長の家庭教師)── 全社員を「AI化」し、お客様にも横展開

1960年長崎県生まれ、九州大学経済学部卒の62歳。
金融機関のプライベートバンカー、研修・出版会社、そして福祉事業(千葉・神奈川でグループホーム経営)と歩んできた。
昨年、東京の自宅と事業をすべて売却し、37年ぶりに福岡へ帰還した。
転機は前回の起業カフェ。
「AIが人格を持って、パソコン上にキャラクターとして登場する」という話に衝撃を受け、思い切って業態を変えた。
DeNA・南場さんが人格を持つAI社員『レモンちゃん』をつくった事例に倣い、残ってくれた4人の社員それぞれに「分身AI」をつくらせたという。
SNS、集客・営業、CS・コンテンツ、経理・総務――各担当のAI社員がChatworkの上に常駐し、話しかければ即座に対応する。
「夢としては、半年後にチームの処理能力が3倍、1年後には会議にもAI社員が参加して議事録やタスク管理を自動化、2年後には会社自身の分身AIが新規顧客に対応する」と語る。
第1号のお客様は会計事務所。
税務専門領域・社外CFO・記帳や基調業務・経営者との対話の4領域に分け、本人にしかできない『対話』にリソースを集中し、定型業務はAIに任せるという設計を提案している。
「自社のことと顧客のことがAIの中で混ざらないか」という質問には、「人間と同じで、最初は混同もある。だがフィードバックを重ねると学習して、痒いところに手が届くようになってくる」と応じた。
石松道右(インプレス福岡代表)── 「バーガーキング流 逆襲」を印鑑屋に転写する

前回は日経ビジネスの記事をAIで分析し、自社戦略に落とし込む話をした。
今回は、一冊の本との出会いから、西日本新聞社の取材に至るまでの流れを話したい――石松はそう切り出した。
きっかけは、日経ビジネスの書籍紹介で見つけた『バーガーキング流 逆襲のマーケティング』。
紹介文を読んだだけで「これは面白い」と直感した。
だが本が届くのが待てない。そこで書籍解説のYouTube動画を文字起こしし、Claudeに分析させて自社の実践書に落とし込んだ。
王者マクドナルドは日本に約3000店舗。
資金も店舗数も少ないバーガーキングは、価格競争では絶対に勝てない。
だからこそ自分の強み――マーケターの神田昌典氏が言う「旗印」――を立てる。
インプレス福岡も同じだ。大手通販サイトに価格では勝てない。
だが「来店して、起業や経営の話をじっくりしたい」という人が訪ねてくる。
そこを旗印にして、人に来てもらう。
『お金がないなら知恵を出せ』『顧客に聞け』――本の戦術を一つひとつ自社に当てはめていった。
AIに「すぐ実践できる具体戦術30」を挙げさせたところ、その一つに「西日本新聞などローカルメディアへプレスリリースを」とあった。
プレスリリースは2003〜4年頃に出して以来、20年ほどご無沙汰だった。
「メールだと埋もれてしまうが、あえて紙のFAXで流すと目立つ」と聞いていたので、その通りに実行した。
AIがなければ、このスピードでは絶対にできなかった。新聞記事も本も、文字起こししてClaudeに読ませ、高校生レベルとMBAレベルの2段階で分析させてから、自社の戦略に落とし込む。このやり方が、うちにすごくマッチした。
── 石松道右
そして石松は、自社の物語を語った。
創業26年目、起業カフェは今回で75回、累計約500名が参加した。
ただ印鑑というモノを売るのではなく、起業する人の覚悟に寄り添う。
脱ハンコが加速する斜陽産業だからこそ、ここに逆転の劇があるのではないか――。
ブログ、メルマガ、YouTube、起業カフェでAIを使って物語を量産し、専属デザイナーへ原稿を渡して発信を続けるうち、問い合わせも着実に増えてきたという。
FAXで送ったプレスリリースは、やがて西日本新聞社を動かした。
この日、記者の方が実際に会場へ足を運び、取材が実現したのである。
Kさん(AR名刺×AIエージェント開発)── 名刺1枚が、プレゼン資料になる

建築の3DCGクリエイターとして活動してきたKさんが、昨年から新事業に挑んでいる。
建築CGをAIで画像・ショート動画に展開したり、不動産の空室にAIで家具を配置する「AIステージング」(3枚2万円)を提供したりと、本業の延長から始まった。
そして全く新しい挑戦が、AR名刺。
スマホをかざすと自己紹介の映像やサービス紹介が立ち上がり、連絡先も保存できる。
裏面にはお客様の仕事内容に合わせて活用法を提案する「専用営業マンGPT」まで仕込んである。
特許出願では、AIが「2件を1本にまとめて出願し、後から分割して請求する」という裏技を教えてくれた。
弁理士からの難解な書面や拒絶理由もAIに分析させて理解した。
「10倍以上の効率化を感じています。」
クラウドファンディングは目標120万円に対し170万円(142%)、支援者は100人を超えた。
リターン設計、説明文、サムネイル、SNS画像、活動報告メール、LP特設ページ(ChatGPTで画像→Claude Codeでサイト化)まで、ほぼAIと協働した。
展示会用の名刺リード管理アプリもClaudeのチャットだけで自作したという。
AIは作業効率化ツールではなく、事業の開発パートナー。漠然とした考えを言葉にしてくれるから、次のアクションが見える。『AIがあったから成功した』のではなく、『AIがあったから挑戦する気になった』んです。
── Kさん
Mさん(英語講師)── ChatGPTで商標登録、学会の音源も教材に
英語サービスを提供するMさんは、ChatGPTで商標登録を相談した経験を語った。
弁理士に頼むと費用がかかる――そこで拒絶理由のポイントを押さえ、AIに作成してもらった書類をそのまま提出したところ、無事に通った。
「弁理士業の方に『どこで取ったんですか』と驚かれるくらいでした」。
数時間ぶっ通しで続く英語の学会では、音源を録っておき、Geminiにラジオ形式で要約させたり、先生方の論文を読み込ませて新しい教材の理論に活かしたりしている。
「壁打ち相手として、もっと使えばいいんだと今日わかりました」と話した。
Fさん(ITコンサルタント)── 「届かない場所」にAIを運ぶ

前回登場したAIエージェント「クロコさん」のその後から始まった。
バージョンアップでスマホから喋れなくなり一度切り戻したこと、重要事項をピン留めして忘れないようにしていること、日記や“絵日記”を書かせて自己進化させていること――裏ではClaudeの頭脳を使っているという。
本題は「未知のDX」。
Fさんが問いかけたのは、クラウドAIが届きにくい現場にこそ、データが眠っているという視点だった。
通信圏外の場所、Windows 7/10のまま動く古いPC、手袋や立ち仕事の食品製造、運転中、デジタルに不慣れな高齢者の現場――倉庫、養鶏場、山あいの小さなダムの点検。
そうしたエッセンシャルワーカーの“ラストワンマイル”では、紙とボールペンが今も主役だ。
そこでFさんが先週つくったのが「マイクロコ初号機」。
USBに入れてインストール不要、ローカルのLLM(アリババのQwen系・350億パラメータ)で動き、ネットがなくても使え、追加課金もなく、機密データを外に出さない。
発想の源は炊飯器だ。
プロンプトで毎回指示するのではなく、「標準・早炊き・極め炊き」のようにプリセットで精度と速度を選べる。実行中は別の作業ができ、終わると音声で知らせてくれる。
実演では、領収書を貼ったスクラップを読み取り、「令和」の元号も手書き文字も文脈ごと正しく認識し、構造化データ(JSON)として出力してみせた。
「セキュリティが最大のポイント。外につながっていないから、機密データを預かれる。」
さらに、現場で一次加工してからクラウドへ上げれば通信量も抑えられる。
機材は30万円程度から(GPUやメモリの品薄で価格は高騰中)。
旅館で『10分500円のコインAI、チェックアウトで完全消去』といった話題づくりのアイデアまで飛び出した。
Gさん(旅館業)── 「使おうと思えば、あらゆるところに」
遅れて到着し、「今日は勉強しに来ました」というGさんは旅館業を営む。
現状はまだAIを使っていないが、「使おうと思えば、あらゆるところに使えると思っています。」
Fさんから飛んだ旅館での「レンタルAIパソコン」というアイデアに、「私は好きです。ぜひうちの旅館にお願いします」と笑顔で応じ、場が和んだ。
この日を貫いた問い
① 正解も不正解もない。いかに使うか
使い方に絶対の正解はない。大切なのは「いかに使うか」だ――
石松のこの言葉に、参加者は深くうなずいた。文字起こし、要約、可視化、壁打ち。同じ道具でも、誰がどんな問いを立てるかで成果はまるで違う。
②クラウドか、ローカルか――適材適所
速さと手軽さのクラウドAIと、セキュリティと自律性のローカルAI。Fさんの「マイクロコ初号機」は、両者を比べて優劣を競うのではなく、現場と目的に応じて住み分けるという第三の道を示した。
③専門職の役割が、静かに問われている
Kさんの特許出願、Mさんの商標登録――AIで叩き台をつくり、士業の方をうまく頼る人が現れ始めた。一方で、「体験した人の一次情報」「自分の言葉で語れること」の価値はむしろ高まっている。AIに任せきりにせず、自分の覚悟と物語をどう乗せるか。今回もそこが分かれ目だった。
④AIは「挑戦する気にさせてくれる」存在
Kさんの「AIがあったから挑戦する気になった」という一言が、この日の空気を端的に表していた。AIは答えをくれる機械というより、考える量を増やし、最初の一歩を軽くしてくれる伴走者なのだ。
参加者の声──当日の感想

ツールやモデル(ClaudeやChatGPT)よりも、何をやるか?そして、自社の事業や自身のポテンシャルを高めるような活用をされていらっしゃる。あらためて刺激とヒントをいただきました!

AIってITじゃないんだなぁと感じました。参加者の皆さんのお話を伺っていると、必要なのは発想と行動。ITの知識はそれほど必要ないというのは衝撃でした。

皆さんに私自身のAI活用についてお話ししたことで、どのように活用しているか、現状と課題を整理することができました。参加して良かったです。ありがとうございました。

経営者としてビジネスを加速度的に進める可能性を具現化なさっている方々ばかりの事例や考え方を拝聴できてエキサイティングな時間でした。人々の生活価値の向上を予感させる、自身でも本腰を入れてクロードコードへの行動を始めたくなる内容でした。
おわりに──15年続けてきた、この場所で
起業カフェは2011年以来、これまでに70回を超えて開催してきた。
もともとは、経営に行き詰まった経験から「経営について学ぶ必要がある」と痛感し、起業家・経営者を対象に始めた勉強会である。
セミナー形式ではなく、お互いの知識と経験をフラットにシェアする。
だからこそ、参加者同士のコミュニケーション向上にも大いに役立っていると感じている。
年代も業種もバラバラの人が、本音で語り合える――そこにこそ、どんな専門書にも載っていない「生きた知恵」が宿る。
そして今回は、その積み重ねに西日本新聞社の取材が入った。
FAXで一枚のプレスリリースを送った小さな行動が、思いがけない出会いへとつながった。
これもまた、AIと共に動いた「小さな逆襲」の一場面なのかもしれない。
会の後は近くの昭和時代から続く焼き鳥屋さんへ。
プレゼン中には言えなかった本音の議論が、夜遅くまで続いた。

改めて、参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。

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