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【起業カフェVol.74】生成AI最前線―AIビジネス活用 実例シェア会

オープニング──甘い一口が場の空気を柔らかくほぐした
2026年4月7日。インプレス福岡のオフィス店舗に年齢も業種もばらばらな起業家・経営者が集まった。第74回となる「起業カフェ」の幕開けだ。
主催者であるインプレス福岡株式会社 代表・石松道右が冒頭、日経流通新聞の切り抜きをスキャンし、Claudeでプレゼン資料に変換したという3本のAIニュース事例を紹介した。
- 「AI浸透で変化、企業の6割が業務変化──アウトプットの量・スピードを若手に委ねる傾向」
- 「転職マッチング、AIが提案」
- 「AIが服装コーディネートを提案」
いずれも日常業務にAIが溶け込む時代の現在地を示す事例だ。
「新聞記事の切り抜きをClaude(AI)に読み込ませ、プレゼン資料へ変換する。零細企業でも今すぐできるAI活用の第一歩です」と石松は述べた。
開会前、参加者の2人が持参した博多の老舗菓子店のマシュマロと、インペリアルホテルのチョコレートがテーブルに並んだ。
ほとんどが初対面同士という緊張感の中、甘いひと口が場の空気を柔らかくほぐした。
この小さな心配りが、その後の率直な議論の下地をつくったのかもしれない。
参加者ピッチ──それぞれのAI活用実例
参加者それぞれがAI活用の現場を語った。
年代・業種・活用深度はまったく異なるが、「AIと人間の関係をどう設計するか」という問いが通底していた。
石松道右(インプレス福岡代表)──ロレックスの哲学を印鑑に転写する

石松のプレゼンの核心は、ロレックスの経営戦略をそのままインプレス福岡に移植することにあった。
ロレックスは2024年に売上高106億スイスフラン(約2兆1200億円)を記録し、業界2位カルティエの3倍以上を稼ぐ独走体制を維持する。その強さは時計の性能にあるのではない。
- 「製品の機能を売らずに所有する自分を売る」
- 「希少性と非日常の演出」
- 「コミュニティへの帰属感」
──この3軸が感情マーケティングの本質だ。
コーポレート・ナラティブをインプレス福岡に置き換えると、「創業25年の技術・即日納品」「印影デザイン」「王貞治会長の印鑑作製」「ソフトバンクホークス新入団選手の来店」。
これらすべてが物語の素材になる、と石松は語った。
石松は実際に自ら書いたブログ記事の2バージョンを示した。
同じ出来事を描いていながら、ナラティブの有無で文章の引力は劇的に変わる。
「印鑑素材のグレードアップは、スペックの問題ではなく感情設計の問題。
顧客が自分の物語の核に相応しい素材を選びたいと思う瞬間、自ら最高の素材を選んでいく」
──感情が動けば単価は自然と上がる、というのがナラティブマーケティングの収益メカニズムだ。
アクションプランとして「日経ビジネス記事をAIで体系分析し、来店・納品記録をナラティブブログに変換、SNS・SEOコンテンツとして量産して告知する」という零細企業でも今すぐできる具体手順を提示。
プレゼン後、Oさんから「かなり高度な使い方をされていますね!」という感想が漏れ、会場の関心が一気に高まった。
Eさん(人材研修会社代表)─ AIと対話しながらコンテンツを育てる

Eさんは社員研修・企業向けコンテンツ制作を手がける経営者。
商工会議所の実務研修企画をChatGPTと共同で練り上げ、採択を勝ち取った実績を持つ。
「若手中堅向け・管理者向け・経営者向けと提案してくれるので、その中から自分が響いた言葉を選び、さらに練ってもらう。言葉選びをAIと一緒にやっています。すごく楽になりました」とEさんは語る。
特徴的なのは、AIに自社情報をあえて大量に読み込ませず、「自分にない価値観を持つ第三者」として活用する姿勢だ。
「自分が使いがちな言葉の枠を超えたい。だから敢えて少ない情報でやり取りしています」。
8月に向けたコンテンツのパワーポイント化もAIと協働する予定とのことで、「AIに褒めてもらいながら進める感覚が意外と気持ちよくて(笑)」と場が和んだ。
Oさん(元ソニー生命・AI生成プランナー)──月収1655円から1850万円、そしてAIとの再起動

Oさんの自己紹介は圧倒的な振れ幅だった。
新日鉄からソニー生命に転職、月収1655円まで落ち込むも「追い詰められてスイッチが入り」半年後に月収1850万円へ。年間で323億円の保険料を販売した後、研修事業・グループホーム経営・東京でのピーク年商6億円と経験を重ねてきた。
しかしコロナ、共同経営者との確執、事業売却を経て福岡に帰還。
「一からやり直すきっかけになったのがAIでした」と語る。
3万1000枚の名刺をデータ化し、Claude Codeと連携してGmail下書きを個別カスタマイズ。
2週間かかっていた作業が20分で完了した体験が転機になった。
現在は「AI生成プランナー」を名乗り、年商10億円以下の中小企業社長向けの「AIの家庭教師」として起業。「100日間で会社を黒字化する社長」をテーマにYouTube・X・インスタで発信を開始した。
「AIという祭りは、傍で見ているか渦中に入るかで大違い。私は今、渦中に入ることを選んだ。」
── Oさん
Fさん(ITコンサルタント)──「魚群探知機を買っても、魚が増えるわけではない」

上場企業の製造本部長・役員を経て独立したFさんのプレゼンは、会場で最も哲学的な問いを投げかけた。
「漁師が最新の魚群探知機を買っても、競争が激化するだけ。発想を変えて養殖に切り替えれば、24時間海に出なくても魚が育つ。AIも同じ。省力化のツールではなく、事業モデルを変える問いとして使え。」
AIの導入が目的化し、「省力化できた」で終わっている企業が多いことへの警鐘だ。「売り上げを上げるところにAIをちゃんと使っていますか」という問いは、参加者の思考を揺さぶった。
Fさんが2週間前に構築し”育てていた”のは、OpenClaw(オープンクロー)。
ローカル環境で業務ネットワークと隔離したサンドボックス(砂場)内で自由を与えられた「AIエージェント・クロコさん」。
ハーネス(馬具)と モデル(馬) を目的に応じて使い分けるAIエージェントの試みである。
日記を書かせ、ツールを自学習させ、Discordで人間と連携する仕組みだ。
午前中、クロコさん用の生成AIと対話できるツールを渡したそうだ。(うらやましい!)
Gemini・GPTなど、ローカル環境とクラウド環境の”生成AI”(大規模言語モデル)を脳みそだけでなく、ツールとしても使い分ける。
「人を育てられない組織はAIも育てられない。省力化だけでは宝の持ち腐れになる」という言葉がOさんのプレゼンと通底する。
ちょうど桜が散ったころ、新卒新入社員のビジネスマナーや業務の研修が始まっている。
AIの界隈でも春の景色が想い浮かんだ。
くろこさん 日記(文字)から”絵日記”を書かせるようにしました。
くろこさんがNanoBananaに依頼した絵日記の挿絵を添付しておきます。
Kさん(AR名刺×AIエージェント開発者)──「探しに行くAIではなく、出会うAI」

建築3DCG映像クリエイターのKさんが昨年9月にローンチした「ONCARD(オンカード)」は、AR(拡張現実)名刺にAIエージェントを埋め込んだサービスだ。
名刺にスマホをかざすと自己紹介が浮かび上がり、そのままChatGPTのカスタムGPTsが起動。
「あなたの仕事内容を入力してください」と問いかけ、名刺の受取人に対してその場で活用提案を行う。
「Webサイト上のAIはすでに興味がある人しかたどり着かない。名刺交換というリアルな接触の場にAIを置けば、まだ興味のない潜在顧客に「出会うAI」を届けられる。」
── Kさん
事業アイデアのきっかけはChatGPTへの問いかけだったという。
「AIエージェントに置き換えられる仕事は伸びない」という記事をChatGPTに貼り付けたところ、「ならAIエージェントをつなぐ側になれば?」と返ってきた。
その一言が「ARとAIを掛け合わせる」という着想を生んだ。
クラウドファンディングは120万円を達成。2025年6月の推し活エキスポへの出展も決定。
「AI×AR」という掛け算が、物理世界での営業コストを根本から変える可能性を秘めている。
Sさん(元金融機関・経営コンサルタント)──「AIで書いた計画書は、融資で落ちる」

金融機関で20年間、融資担当として無数の創業計画書を審査してきたSさんの言葉は、会場に強い緊張感をもたらした。
「AIで書いたかどうか、パッと見ればわかります。その人が生きてきた経験から醸し出される言葉が計画書にない。だから落ちる。自分の言葉で語れない人は、失敗確率が高い。」
── Sさん
Sさんは否定論者ではない。
「下書きはAIでいい。でも自分の言葉に変換してください」というのが指導の核心だ。
自身の業務でも、顧問先でのClaudeノート音声録画→文字起こし→分析→プレビュー提供という流れを実践。経営戦略作成が「1週間から2時間に」短縮された経験を持つ。
「AIに全部頼るか、AIをベースに自分で営業するか。長年の融資審査経験から言えば、前者が伸びることはない」という言葉は、Fさんや石松のプレゼンと深く共鳴した。
Mさん(25歳デザイナー)──「非デザイナーでも高品質が可能な時代のデザイナーの役割」

最年少参加者のMさんは、芸術学部出身の現役デザイナー。イベント運営とバリスタを兼業しながら、「Recraft AI」というAIデザインエージェントの活用可能性を紹介した。
世界初のAIデザインエージェントとされるRecraft AIは、画像生成から動画・音声、ベクターレイヤー編集、HTML出力まで一気通貫で対応。
従来ならMidjourney→Illustrator→Photoshopと複数ツールを跨いでいたワークフローが、単一環境で完結する。
「Illustratorに近い操作感で、非デザイナーでも高品質な制作が可能になってきている。でも芸術的な文脈やデザインの4原則を理解していないと、読みにくいものができる。ハードルが下がるほど、本質的なセンスが問われる」という指摘が印象的だった。
Mさんはさらに「AIコンテンツバンク」──AIの使い方・思想・哲学を人がサブスクするCtoCプラットフォームを4月5日にプレリリースと発表。
「プロンプトを売る時代は終わった。プロンプトの陳腐化が急速に進む今、求められるのはその人の思想をサブスクすることだ」という発想は、石松のナラティブ論と見事に重なった。
参加者の声──当日の感想
セッション終了後、参加者からは次のような言葉が届いた。

いやー、いつもこんなにレベル高いんですか。最近はAI関連の会合には頻繁に参加していますが、こんなにレベル高いAI会合は初めてでした。

面白い知見と経験をもった方々の集まりに参加でき刺激的な時間でした!どのような「想い」「考え」をもって仕事や人と向き合うのか。そんな広い範囲で思考していました。懇親会のお店の料理が美味しくて!また食事に行きたいお店を知った事も嬉しい出来事でした!私に声をかけていただき有難うございました!

ありがとうございました!!少人数制で予想以上にレベルの高いお話がたくさん聞けて大変勉強になりました。年代も業種もバラバラでセミナー方式ではなく、お互いの知識をシェアできる場だったからこそ、得られたものが大きかったと感じます。この輪を広げていきたいですね!(※この感想をThreadsにポストしたところ、参加できなかった方を含む3名から参加希望が届いた)

いろんな年齢、業種の人が集まっていて、AIの活用方法が知れて、とても楽しく勉強することができました!

ありがとうございました!セミナーについては、実践者の目線で活用事例や問題点などを議論できたことで、より自分ごととして深く考えることができました。懇親会では、初めて会った方々とじっくりお話しでき、親近感がとても高まりました!

貴重な機会ありがとございます。みなさんの活用場面、いろいろなアプローチがあって面白かったですー。お腹いっぱい。共通しているのは、主役はヒトだったと思いました。出来たものについて、想いや熱がこもってるか。ナラティブ。あと、EさんやKさんのように、コンテストやイベントに出るに至ってる点など、女子すげー。
この夜を貫いた3つのテーマ
テーマ① 「主役は人だ」
AIが文章を書き、デザインを作り、メールを送る時代。
しかし全員の発言に共通していたのは、「主役は人間だ」という確信だった。
Sさんの「AIで書いた計画書は自分の言葉で語れない」、FさんのAIエージェント研修日誌、EさんのChatGPTとの対話、Kさんの「探しに行くAIではなく出会うAI」、MさんのAIコンテンツバンク。
そのすべてに「人の思想・熱量・物語」が不可欠な要素として組み込まれていた。
Fさんの「出来たものについて、想いや熱がこもってるか。ナラティブ」という一言が、この夜の精神を端的に表している。
テーマ②「祭りに乗るなら中から」
AIブームという「祭り」に対して、観客として外から眺めるか、中に飛び込むか。Oさんは言った。
「傍で見てるか、中に入ると全然違う。中に入ったことが正しい」。
Fさんも「乗っかることは否定しないが、事業モデルまで変えないと意味がない」と続けた。
共通するのは、ツールへの過信でも忌避でもなく、「自分の事業にどう組み込むか」という設計への問いだ。
テーマ③ 「物語を売れ、製品を売るな」
石松のプレゼンから始まり、Kさん・Sさん・Fさんの発言に至るまで、「ナラティブ(物語)の有無が成果を分ける」という認識が会場全体に共有された。
ロレックスが「時計」を売らず「ビジネス成功の証」を売るように、インプレス福岡は「印鑑」を売らず「あなたの物語に刻む魂の証印」を売る。
この哲学の転換が感情マーケティングとナラティブの本質だ。
おわりに──参加者全員の心が一体化
懇親会は近隣の居酒屋に場を移し、プレゼン中には言えなかった本音の議論が長く続いた。
福岡という街が持つ「肌感覚の温かさ」──Oさんがそう表現した地域の空気がこの夜を特別なものにしていた。
起業カフェは、知識欲と交友欲が集まる場だ。
年齢も業種もバラバラで、特に今回はセミナー形式ではなく、お互いの知識と経験をフラットにシェアした場には、どんな専門書にも載っていない「生きた知恵」が詰まっている。
「年代も業種もバラバラで、単にセミナー形式ではなく、お互いの知識をシェアできる場」(Kさん)は、次回もきっと新しい物語を生み出すはずだ。
起業カフェは2011年以来、これまでに70回を超えて開催してきましたが、今回はAIに的を絞り、参加者各自が自社の活用をシェアする中で、皆の関心が一点に集中し、参加者全員の心が一体化した。
始まりから懇親会まで、終始一糸乱れなかった。
参加者の満足度も相当高かったと率直に思いました。
改めて参加いただいた皆様、ありがとうございました。

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